【後編】地域と調和する”まだ見たことのない景色”へ(学長候補・宮田裕章氏×建築家・藤本壮介氏)
2024年の開学をめざす飛騨高山大学(仮称)の学長候補である宮田裕章氏と、本校キャンパスを設計した建築家・藤本壮介氏による対談形式インタビューを行いました。地域に根差すとともに世界に繋がっていくビジョンを具現化しているという飛騨高山大学(仮称)のキャンパス。どのような背景から現在のイメージが生まれたのでしょうか。そして、そのキャンパスによってどのような未来が見えてくるのか、お二人に話を伺いました。
※Youtubeにて対談が動画で閲覧できます。記事下部のリンクをご覧ください。
本校キャンパスの建築について
ーまず、藤本さんからキャンパスの概要についてお話を聞かせください。
藤本壮介 (以下藤本) 最初に飛騨高山大学(仮称)のビジョンを聞いたとき、飛騨という地域に根差すと同時に世界に繋がっていくという点にすごく共鳴しました。実際に飛騨のまちを訪れてみて、美しい山並みに囲まれたまち全体が学びの場であるように感じました。同時に、山の向こう側に何かがあると感じることと、大学がこの先の世界と繋がることが連動していく予感がしました。まさに飛騨のまちそのものと共鳴しているんだなとすごく感じましたね。
であれば、この大学のキャンパスはどうあるべきなのか。キャンパスだけではなく、地域の方との親密な繋がりが生まれ、その先の未来に繋がる予感が生まれる場所になれないかなと。宮田さんや井上理事長と色々なやりとりをする中で、“ゆったりとしたすり鉢状の丘”のアイデアに行きつきました。
キャンパスの中央に広がっている場所は、すり鉢状だけれど周辺の地域に対しても開いています。また、内側に向いている中心性もあり、そこに来た学生さんや教員、地域の方が自然と一体感や親密さを感じるでしょう。そこから外に目を向けると、空に消えていく丘の斜面があって、遠くに美しい山並みも見えるんだけれども全部は見えない。それゆえに、その先にある世界や未来、日本各地を希望・予感として感じられる場所になるんじゃないかなと思って「丘」をつくりました。
大学のビジョンを象徴する場所にもなってほしいなと思いますし、色々なことが起こるプラットフォームにもなってほしいですね。風景をつくっているんだけれども、同時に、その風景はどんどん移り変わっていって、多様な情景が見えるような場所でありたいなと思っています。
丘はすごくシンプルなんだけれど、建物の中に目を向けると良い意味で複雑なつくりになっています。どこでも知識に触れられ、どこでも対話を始められて、その対話に他の人が合流することもできる。また、ふと耳にした言葉からインスピレーションを受けるかもしれない。図書館に象徴されていたような学びの場が大学全体に広がっていくことが、これからの学びの場にふさわしいのではないかなと考えています。そこで、あえて廊下がなく、図書館ですべて繋がっているような設計になっています。ゼミ室や研究室、講義室、事務室など、他のスペースも有機的にダイナミックに繋がっていて、その中を学生が動き回ることで、色々な活動が生まれ、知識に出会えるきっかけになればいいと思っています。それが丘によって統合されているというわけです。表裏一体の関係でお互いを引き立て合う場所になっているんですよね。
ー宮田さんはキャンパスについていかがでしょうか?
宮田裕章(以下宮田) 新しい大学の中で何を実現するのか。これまでの社会では物をつくる・持っていることが豊かさでしたが、これからは違うと思っています。一人ひとり基準が多様であり、その中でどう幸せを感じることができるか。そういった豊かさが大事なんだという社会にシフトしてきているんですよね。
もう一つ大事なのはそれらが繋がっていることです。独りよがりで豊かであったとしてもそれは続きません。社会の中で繋がりながらいかに互いが豊かであるか、未来をポジティブに見ることができるか。そういう場でありつつ、ここに来た学生や教員、地域の方、文化体験で訪れた人たちに、言葉ではなく場の力で伝えられるのがこの建築(キャンパス)のすばらしいところだと思っています。
そういう場をどうつくるのか。飛騨に深く根差し、地元の人たちが大切にするものをともに大切にする大学でありながら、都心部を拒絶して地方だけで固まるわけではなくて、都市も含めた地域と繋がりながら新しい未来をつくる。一つの最先端であり、新しい未来がそこにあるのだという体験を同時にこの建築でつくりたいと思っています。藤本さんはまさにそういったイメージを具現化する力を持ったすばらしい建築家です。その中でキャッチボールして到達したのがこの「丘」です。
この丘のグラウンドビューは誰もまだ見たことがないものだと思います。そういう意味でまず最先端ですし、私自身、丘とか坂が大好きで。登る過程で、「あの先何が見えるだろうか?」と心が躍るんですよね。下から見上げたときの広がり・可能性・希望・志。人々の気持ちを喚起するようなビューでありながら、緩やかなスロープで包み込まれる空間であることによって、集う人たちがチームとしてともに未来をつくる仲間なんだという一体感を持ちながら、未来を感じられる場所になったなと感銘を受けています。
藤本 最初の提案では、丘をまっすぐ登っていくイメージだったんですよね。宮田さんが仰った、「向こうに何があるんだろう?」という感覚、上昇していく高揚感はあったんですが、まとまりをつくるという感覚はまだなかったんです。登っていくと同時に緩やかに場所を包み込む空間というのは、大事な次のステップだったような気がするんですよね。
宮田 最初のパターンでは両側に建物があったんですよね。すばらしい一方で、見たことがあるというか、「この建物の意味は何だろう」と藤本さんとディスカッションをする中で、見事に建物が消えたんです(笑)。
この丘がすばらしいのは、どこに立ってどちらを向くかで体験の内容が全然変わってくるんですよね。片方にまちが見え、片方に丘が見える。あるいはもっと縁に立つと、世界とのつながりの中に自分が飛び込んでいくような感覚を持つことができると思います。座って仲間たちと対話する際にも、それぞれが違うビューを見ている。新しい未来にチャレンジする上で、人々の多様な立ち位置というのがこのスロープの体験の中にミックスされたのはすばらしいと思います。
飛騨市と本校キャンパスの関係性
ー 本校のキャンパスは、飛騨高山という地域にとってどのような存在になるとお考えでしょうか?
藤本 まちに対して半分開いた状態でつくっているので、普段のお散歩コース、日常の風景になってほしいと思います。一方で、すごく特別な場所でもあってほしいですね。両方が上手く同居しているのが、刺激的ではないかなと思います。ここで学ぶ人にとっては、地域の方との関係がある点が面白いと思います。「あの場所には何かがあるよね」という高揚感を地域の方々にも共有できると、飛騨に根差した学びの場の意味が高くなってくるんじゃないかなと思います。外部講師やゲストの方がこのキャンパスに来たときに、地域の方と学生でつくる求心力・エネルギーに触れると、この場所の価値をより感じてもらえると思います。
日常的な場所であると同時に、常に面白さを感じられる場所になって、地域の方と双方向で刺激し合い、大学のパワーを増していける場所になってほしいです。
宮田 キャンパスの中にカフェと食堂がありますが、地域の方たちもそこで大学の空気に触れながら、リラックスした楽しい時間を過ごしてほしいと思いますし、日常の美しさを感じられる場所であると思います。
一方で、自分をアップデートする場でもあってほしいと思います。これから“人生100年時代”の中で、同じ職業にずっと就く人は減っていくんですよね。兼業や副業で色々なことを学びながら、世界とどう繋がっていくかを考える時代になっていきます。誰もが楽しく学び続ける、好奇心を刺激しながら新しい可能性と繋がる場所であるべきだと思います。
また図書館に望むこととして、知識へのアクセスというよりは、さまざまな文化体験、あるいはフィジカルなものも含めた世界に触れる・交流の場であってほしいと思います。
大学の中でそれぞれにとって好きな場所があるといいですよね。飛騨に来たらここで写真を撮りましょうというときに、「私はこの角度が好きです」とか「早朝の柔らかい陽が差し込む時間帯がいい」みたいなことを地域の方と一緒に見つけられるといいなと思います。
これからの教育、これからの共創
ー飛騨高山大学(仮称)における地域×教育の在り方、そして共創の在り方について、どのような未来を描いていらっしゃいますか?
藤本 学部の名称が「共創学部」という名前にアップデートされて、すごくわくわくしています。今までの学部がそれぞれで専門を究めるところから、それがさらに連携していくことはこれからの社会そのものだなと思います。さらに言うと、宮田さんがずっと追い求められている、“繋がりながら生きていく”ということや、Co-innovation、Co-creationとも連動している大学のビジョンは最先端でもあるし、宮田さんというふさわしい方を学長候補に迎え、ものすごく面白いことが起こりつつあるなと思います。
共創は学部の中の繋がりだけでなく、地域の方とも連携することになりますよね。それぞれの場所で親密に行われる共創と、外との繋がりの中で行われる共創、お互いを支え合うようなつくりが、まさにこれからの時代に求められている社会像そのものかもしれないですよね。そのための場所として建築やコンテンツ、オペレーションをどんどんアップデートしていけそうだなと感じています。
共創という言葉がこのプロジェクトを見事に言い表していると思います。私自身も建築で考えてきたことがその中でうまく連動していると感じています。さらに広域の共創が生まれてくるような予感がしますし、世界的な動きになるのではないかと、すごくわくわくしています。
宮田 ローカルな価値観に根差しながらも世界と繋がっていくことは、まさに藤本さんも体現していらっしゃると思います。藤本さんとの出会いでより大学の概念が具現化してきたと思いますし、地域との繋がりの中で我々のプロジェクトもすごく刺激を受けました。すばらしい連携になっていくといいなと思います。
キャンパスの敷地自体も、建築で共鳴するような形でデザインしていただいたと思いますが、ここでどう過ごしていくのか、文化体験する交流の場所をどう運用していくのか、どうアートデザインを置いていくのか。以前、藤本さんとお話した際に、かつて建築はパーソナルとパブリックを区切る、壁をつくる仕事になりがちだったんですけど、今は人と環境を隔てるだけではなく繋がりをつくる仕事だと仰っていたのがとても印象的でした。まさにこの大学も、サイエンス、アート、建築、ビジネス、多様な文化を通じて、人と世界の繋がりを色々なアプローチでつくっていく大学になればいいなと思います。この場所でダイナミックに新しい繋がりをつくり続ける実践が生まれてくると思うと、非常にエキサイティングですね。
藤本 建築って、ときとして相矛盾することが同居せざるを得ないときもあると思います。建築は一歩間違うと、矛盾を排除して限定してしまうリスクが常にあるなと考えています。場所で直接繋がるということと、世界と繋がるという反対向きの繋がりをどう同居させるかが、実は難しかったです。直接見えなくても世界との繋がりを感じることはできるのか、という問いがあるような気がします。宮田さんと議論させていただく中で、私たちが予感でつくっているものに対して解釈や意味付けを返してくれて、クリエイティブにやり取りできたと思います。丘は向こう側を見えなくしていますが、見えないことによってその先を感じさせるようなつくりを上手く盛り込んで、見えることによる繋がりと見えないことによる繋がり、内側の親密な繋がりと外側の繋がりをつくることができたと思います。議論の過程が共創そのものだったと思います。
宮田 建築もCo-innovationの中でどんどん変わっていったところもエキサイティングでしたよね。私自身、藤本さんの建築をリスペクトしてやまないのですが、相反する要素をはねつけるのでもなく、ぶつけるのでもなく、両方引き立たせるようなスケールの大きさがあると思います。
巨大な建造物を手掛ける場合、スケールが大きい一方で、人間がひれ伏す存在になっていたり、画一的な体験するためだったり、逆に人に寄りすぎると全体像が見えなくなります。ですが、藤本さんの建築にはスケール感とそこで生きる一人ひとりへの優しさがあるんですよね。多様な人たちがそこにいるはずだ、という優しいまなざしが同時にある。これが共存している建築家は、本当にすごいなと思いました。
これから仕上げに向けて、優しさと繊細さの部分は丘のディティールや過ごし方を詰めていく中でも、きっとCo-innovationが起こっていくんだろうなと思います。すばらしいお仕事をご一緒させていただいて、感謝しています。
ー最後にお二人から一言ずつメッセージをお願いします。
藤本 今の宮田さんのお話で大切だと思ったのは、今私たちがつくっている大きな枠組みとしての場があって、これが10年、20年、50年経ったときに、また違ったコミュニケーションやテクノロジーによって新しく解釈され、新しい意味が生まれてきそうだなと思うんですね。
開学後にキャンパスを使い始めたときに、それぞれの学生さんや地域の方にとって色々な意味が重なってくる場になると面白いなと思います。多様性を受け止めて、場の意味の厚みを増していくような場になると期待しています。すべての人がこの大学をさらに共創していくんだなと、すごく楽しみになりました。
宮田 Co-innovationは皆さんとともにこれから始まっていくんですよね。この場所で何をするか、色々な形でこの場所が使えると思いますし、図書館の回廊の中でも文化体験ができると思います。場所をどう使うかということに関して、無限に可能性が広がっているんだと思います。丘の先で色々な地域と繋がるように、ここでつくってきたアイデアを色々な世界とともに繋がりながら考えていけるといいなと思っています。
Youtubeにて対談が動画で閲覧できます。
https://youtu.be/DCeAS8iApX4